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広島高等裁判所 昭和55年(ネ)114号 判決 1981年10月29日

主文

原判決を取消す。

被控訴人は控訴人両名に対し、各金二五〇万円及びこれに対する昭和五四年九月一日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人両名

主文と同旨(請求減縮)

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二主張

次に付加、訂正するほか、原判決該当欄記載と同一である(ただし、原判決二枚目表八行の「同人」を「北橋」と、四枚目表九行の「同3」とあるのを「同3及び4」と改める。)からこれを引用する。

一  控訴人両名

1  原判決二枚目裏三、四行の主張を撤回し、同末行から三枚目表一行にわたる「一四〇〇万円の範囲内」を「一〇〇〇万円の限度」と、三枚目裏八行の「七〇〇万円」を「二五〇万円」と、同九行の「昭和五五年」を「昭和五四年」と改める。

2  本件保険約款第二章第三条一項三号の「正当な権利を有する者」とは、記名被保険者だけでなく、同人と特別密接な関係にある者も包含すると解すべきである。

本件についていうと、保険の記名被保険者である北橋好文は本件自動車の取扱一切を丸山淳に委せていたものであつて、丸山が北橋と職場を一にしている限り、丸山は北橋と全く同様に本件自動車の支配権を有していたのであるから、丸山は前記「正当な権利を有する者」に該当する。従つて、丸山の承諾を得て本件自動車を運転していた訴外亮二の死亡については、前記条項の免責はない。

3  仮に、「正当な権利を有する者」が北橋に限られるとしても、訴外亮二を「また借り」の借主とみることは相当でなく、丸山と同視すべきである。すなわち、「また借り」とは記名被保険者北橋の予期に全く反する場合であり、かつ許諾被保険者丸山の支配権からも判然と解放された独立性の強い場合と解すべきである。北橋は、丸山が本件自動車を蒲刈町に持帰つた場合に、同人の親友である訴外亮二らにも運転させることを予期し、暗黙に了解していたものであり、また訴外亮二は、本件自動車運転の経緯からすると、丸山の手足と同視し得る関係にあり、丸山の支配権から全く脱した独立性ある運転ではなかつた。従つて、被控訴人主張の免責条項に該当しない。

二  被控訴人

1  前記2及び3の主張は否認若しくは争う。

2  「正当な権利を有する者」とは一般的には記名被保険者に相当する者(記名被保険者、名義被貸与者)を指すと解すべきであり、本件について保険証券に記載された被保険者は、本件自動車の所有者である北橋であるから、「正当な権利を有する者」は北橋に限られ、丸山は同人の承諾を得て自動車を使用するものにすぎない。また、本件自動車は、北橋が自己の足代りにするために買入れて使用していたこと、倉橋町鹿島の作業場においては、北橋が丸山を部下として作業に従事させていたこと、丸山は本件自動車を専ら鹿島での作業のために使用していたことを総合すると、丸山は北橋の支配下でその補助者として作業のために本件自動車を使用していたにすぎないもので、北橋と全く同様に本件自動車の支配権を有していたものではない。

3  現行の保険約款が被保険者の範囲を限定する建前をとつている趣旨から、「承諾」は特定人に対する事前かつ直接のもので、使用目的、場所、期間等の条件が付せられていることが必要であると解すべきであり、訴外亮二は北橋から右の承諾を得ておらず、許諾被保険者丸山から本件自動車を「また借り」した者に当る。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  北橋好文がその所有する本件自動車について、被控訴人との間に、控訴人ら主張の保険契約を締結したこと及び訴外亮二が死亡したことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一ないし第三号証によると、右訴外亮二の死亡は、昭和五四年五月八日に同訴外人が本件自動車を運転中、石垣に激突したためであることが認められる。

成立に争いない乙第二号証(自動車普通保険約款)によれば、訴外亮二は前記保険契約において被保険者に該当することになる(約款第二章第二条)ことが認められる。

二  被控訴人の抗弁について判断する

1  本件保険契約に、「被保険者が被保険自動車について、正当な権利を有する者の承諾を得ないで被保険自動車を運転しているときに、その本人について生じた傷害については、保険金を支払わない。」との約定があることは当事者間に争いがない。

2  被控訴人は右約定により、被控訴人に保険金支払義務がないと主張するので、以下訴外亮二が本件自動車を運転するに至つた事情を認定して、右主張の当否を検討することにする。

3  成立に争いのない乙第一号証、原審証人北橋好文、同丸山淳の各証言を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  北橋は、昭和五三年一〇月一〇日に同人の大工仕事に利用するため本件自動車を代金六八万円で購入し、右代金を月賦で支払つており、本件保険契約では、保険料は同人が支払うこととしていた。

(二)  北橋は、棟梁益田実の下で働いていたが、丸山も昭和五四年一月から益田に弟子入りして働くようになり、同年三月こらから右三名は広島県安芸郡倉橋町鹿島で住宅建築に従事していたところ、益田が負傷して入院したため、以後は北橋、丸山の両名が同所の施主宅に泊り込んで仕事をするようになつた。そして、右従業の間、北橋は、丸山が買物や遊びに行く際等に本件自動車を使用することを許していた。

(三)  同年五月八日に丸山は、所用のため、北橋の承諾を得て、翌九日に前記建築現場に引返す予定で、本件自動車を運転して同郡蒲刈町にある自宅に帰宅した。

(四)  丸山と訴外亮二とは同町内に住み、親友であつたことから、丸山は、帰宅した夜も訴外亮二等友人数名を自宅に呼んで雑談中、訴外亮二が、飲物を買いに行くことになり、丸山の了解を得て本件自動車によつて出かけている内本件事故が発生した。

(五)  北橋は、丸山を通じて、訴外亮二と数回会つたことはあるが、訴外亮二の前記自動車の運転については事前に連絡を受けておらず、本件事故発生後にこれを知つた。

(六)  北橋は、丸山が本件自動車を使用する間、同人の友人に転貸することを予想していたが、これを禁じてはいなかつた。

以上の事実を認められ、乙第七号証には、北橋が訴外亮二に本件自動車を貸与した旨の記載があるが、右記載は前掲証拠に対比して信用できず、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

4  被控訴人は、1の約定にいう「正当な権利を有する者」とは記名被保険者に相当する者(記名被保険者、名義被貸与者)を指す旨主張する。しかし、記名被保険者から被保険自動車を借りてこれを使用する者も、一般には同車を使用するについて正当な権利を有する者であることは明らかであるから、記名被保険者が転借することを禁じて使用を許したというような特段の事情のない限り、借受人の承諾を得て被保険自動車を運転した者は、正当な権利を有する者の承諾を得た者に該当すると解するのが相当であり、控訴人主張のように限定的に解釈することは相当でない。

5  前記認定事実によると、丸山は本件自動車の保有者である北橋から同車を借受けた者であるから、同車を使用するについて正当な権利を有する者であり、訴外亮二は右丸山の承諾を得て本件自動車を運転した者であり、これに関し特段の事情は認められないので、訴外亮二の右運転は被控訴人主張の免責条項に該当せず、被控訴人の抗弁は採用できない。

三  成立に争いのない乙第二号証(前記保険約款)によると、被保険者が自動車の運行に起因して傷害を被り、そのため死亡したときは、一〇〇〇万円を死亡保険金として被保険者の相続人に支払う旨の規定(第二章第五条)があることが、成立に争いのない甲第一一号証によると、控訴人らは訴外亮二の父母であり、相続人であることが各認められるから、損害額については判断するまでもなく、被控訴人は控訴人らに対し、本件保険金を支払う義務がある。

四  そうすると、本件保険金のうちの五〇〇万円(控訴人各自二五〇万円)及びこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和五四年九月一日から支払ずみまで商事法所定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める控訴人らの本訴請求は理由があるのでこれを認容すべきであり、これを棄却した原判決は失当であつて、本件控訴は理由がある。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 辻川利正 梶本俊明 出嵜正清)

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